Recipe: サービスデザインの理解がない組織と新しいサービスを稼働させる方法

原文:ROBERT GROSSMAN (Chief Service Experience Designer, Grappling Hook llc) サービスデザイナーとして仕事する上で、サービスデザインについて理解がないクライアントと遭遇こともあります。このような時に、どうしようとお困りの方に吉報です。この記事ではそんな状況にとっておきなアドバイスを実例とともに紹介します。


 【注意】 


まず先に注意点が2つあります。 


一つ目は、血迷ってもサービスデザインに免疫がない組織では大胆に行動するのは避けて下さい。 クライアントや社内の誰かに営業時間を使って何をしているのか、と質問攻めにされることもあるからです。従って、このような場合は水面下で巧妙に動くことが鍵となります。 


二つ目は、これから紹介する実例と方法はあなた方の課題を解決する 魔法のパッケージでないことを、念頭に置いてください。 新しいサービスに取り組む時に肝心な最初の勢いをつけることが目的で、応用されることを前提に書いています。 会議室で議論だけ進んで、現状が変わらないような状況のように、うまく前に進めない時に参考にしていただければと思います。


今回紹介するお話は、私のチームが北米最大の自転車シェアプログラム内の移動式自転車修理サービスの開発に携わった時の話です。 


当時、クライアントは営業する上で指定されている自転車の稼働率の最低ラインを下回っていたので、 この数字をあげるために雇用者を増やしてほしいという課題を私たちは託されました。 修理工たちの作業スピードは変わらないことを前提として議論は交わされ、案のいくつかは検証されたのですが成功せず、提案されるアイデアもモラルが低いものばかりでした。移動式自転車修理というアイディアは私たちが入る前に既に議論されていましたが、 気がついたらそっちのけにされていました。 試しに自転車を道端から修理屋に移動させるトラックの運転手に修理道具をもたせてみたら、 彼ら自身がその場で簡単な修理を行えることが分かりました。 


このような修理により、おそらく20-25台の修理屋行きの件数を防ぐことができます。 


この時点で私たちは自転車修理店舗では通常1日4~8台の修理が行われていること、 


トラックは1日あたり2回収集して22台ずつ積まれていること、
2台のトラックが2~3のシフトに渡って回っていること、
ときには、週7でトラックが運行しているという情報を得ていました。
つまり、毎日約176台もの自転車が倉庫に送られ置かれている状態が浮き彫りになったのです。 


逆算すると、仮に修理工1人にあたり1日7台の修理を行えるとして、 この仕事量を当日終わらせるには25人の修理工が必要なことが分かります。 しかし実際に雇用されていた修理工の数はというとたったの16人でした…。 


他のトラックの運転手や元運転手にもインタビューを行ったところ、 ダウンタウンや池の近くのような場所にバンでいくと3つの地区を超えるのに45分かかるのに対して同じルートを利用しても自転車では5分しかかからないことが判明しました。 その後、クライアントに監視されていない状態で私たちの中の何人かで移動式自転車修理サービスのサービスジャーニーを描きました。実はこの作業工程を修理工たちは楽しみにしてくれていて、快く参加してくれました。


私は、クライアントであるマネージメント層がこの移動式自転車修理のアイディアを実現するためのステップを視覚的に伝えるノウハウと我々が発見した上記の数字を持っていないことを知っていました。そして、この二つの要素が成功への鍵だと考えたのです。 


次に工業デザインのバックグラウンドを持つ修理工に依頼して、専門的な機能等も考慮しつつストーリーボードをかっこよく描いてもらいました。 私の拙いスケッチをうまく翻訳してもらったのです。

また、ビジネスモデルキャンバス(以下、BCM)を埋めるために昼休みを使って様々な部署の人たちに相談し必要且つ正しい情報を集めました。 


 このBCMに関しては決して緻密である必要はなく、

「なぜ、どのように、何をどれくらいまでするべきか」 

を発表することが重要でした。 


ある日、何名かの修理工のリーダーたちと我々は一緒になって道具や部品を引っ張って野原で自転車修理をするところを想像して嘲笑しました。 そして同時にイメージが一気に膨らみました。 道具や部品がすぐに重くなり、四つん這いで自転車修理をすることは身体的な負担がかかります。修理工たちに移動式自転車修理の案をなぜ支持しているのかという理由を聞いているうちに、あることに気づきました。実のところ、彼らはただ倉庫から脱出して修理の現場まで湖の近くを通り太陽の下で仕事をするという発想からこのアイディアを実現させたいと考えていたのです。私はこの感想をまとめてパッケージ化し、キャッチコピーを作り、それを人々に見せて反応を伺いました。 


これに関して、とても前向きな反応が返ってきました。 


そこで私はこの案件を担当するマネージャーにこのパッケージを解決策として渡しました。その際に、彼に「会社の営業時間を無駄にしてくれた」とぼやかれたのを覚えています。


一ヶ月後、クライアントから移動式自転車修理工を実現させるが導入を他に任せると伝えられました。きっと、私は誰かを怒らせたのだと思います。驚くべきことではないですが。その間に、私はそのプロジェクトに新しく任命されたチームのエキスペリエンス・マップやインテラクティブなプロトタイプの作成担当者を指導する機会を与えられました。


現在(2017年時点)は2人の修理工が自転車移動し修理現場へ向かい、1日に平均20台を修理しています。新たな変化をとても気に入っている様子も伺えました。1日に約40台もの修理を二人の修理工により行えるようになった結果、トラック2台分の修理台数を1日で担えるようになりました。二人の修理工のアウトプットを3倍に増やした上に、1日2回のトラックの往復を省き、更に修理店舗に運搬される自転車を1日あたり136台に減らすことができました。もちろん、新しい雇用はしていません。 


今回のレシピ:  

  • チャレンジ ステートメント...1
  • 短いインタビュー...5-10
  • サービスジャーニー...1   
  • ビジネスモデルキャンバス...1   
  • ストーリーボード...1   
  • 尊敬されている専門家やステークホルダーから引用...5   
  • 継続的に進化するプロトタイプ...11

⑴チャレンジ ステートメント 



チャンレジステートメントはデザイン思考の初期段階に行う、注目するべき課題を特定します。 まず、課題を見つけましょう。 そして遊び心をもって、それに取り組んでみましょう。 この時に今までの試みと成果に注目することをお勧めします。 そして、チャレンジ ステートメントを作ってみましょう。 10案ほどチャレンジ ステートメントを練ってみてそれらの中間に価するような案を選びます。 案の内容を分解してみたり、組み合わせたりしても良いでしょう。 



(2)短いインタビュー 



改善したい課題の中で出てくるオペレーションに関わる多様な人にインタビューし、 質問や観察を通していろんな視点を得て、それらをメモして下さい。この時に、もし重要な言葉が出て来れば引用していいか聞くべきです。彼らは、自分たちの経験や知識を共有することを喜ぶでしょう。タイミングとしては、お茶をするような休憩時間等がおすすめです。 


【注】もし誰かにインタビューに対して質問されたら、彼らの仕事への理解を深めたいと答えれば大丈夫です。それに対して、非難する人はまずいないはずです。インサイトの段階なのですから。 



(3) ビジネス モデル キャンバス (BCM) 



次にBCMを作成します。 BCMとはビジネスモデルを9つの項目に沿って記述、分析しながら客観的に比較し設計できるツールです。BCMの素晴らしいところは、まずプロジェクトを行うのに必要な発言権をもつすべての人に少しずつ話せるところです。エグゼクティブ、弁護士、会計士や官僚などです。共有が必要な現段階でのプロセスや数字や人についての参照が可視化されていてぱっと見で分かるのも魅力の一つです。 


 

(4)ストーリーボード 



次にプロジェクトへの関わり深い人とサービスステップについて話し合いましょう。そして、サービスステップを実際に描いてみて、ストーリーボードを作成しましょう。可視化することで言葉の定義等、細かく理解しやすくなります。ご自身の絵に自信がない人は誰かに託すのも可能です。ただし、最終的なイメージがご自身と描いている人との間で合意がとれ、納得いくように必ずしておきましょう。ストーリーボードはサービスに関わる人たちにとってマニュアルになります。特に経営層にとっては、このストーリーボードは自身の考えやアイディアの基点として使える便利なツールなのです。 



(6)専門家やステークホルダーからの引用 



引用を使うことによって意思決定者たちに「現場での専門家」がどう考えているのかを提示できます。言い換えれば、相手に紹介する持論を定性的に強化できるということです。 彼らが課題に感じていること等を引用してクライアント企業のマネージャーに持っていき、プレゼントします。すると、組織図的に上へ上へと情報が共有されていくはずです。 



(7)プロトタイプ 



最後に紹介する材料は継続的に進化するべきであるプロトタイプです。これまで、水面下でご自身が試作していたプロトタイプをマネージャーたちに見せる段階になるでしょう。ここで、注意していただきたいのは決して策略だと思われてはいけないということ。今回のように「会社の時間を無駄にされた」と言われプロジェクトが進まなくなってしまうこともあります。そのため、ご自身のアイディアがいかに会社にとって有意義なのかをしっかり伝える必要があります。 


 

ここまでできたら、あっという間にサービスができているはずですよ。 



Bon appétit!   

Related Headlines

SDN Chapters Touchpoint Vol 14-3 Roundtable | Implementing Service Design

Touchpoint Vol 14-3 Roundtable | Implementing Service Design

On April 10, 2024, we are holding a special event connected to the publication of the most recent issue of Touchpoint, the journal of service design. The issue explores practical aspects, challenges and successes in translating service design outputs into tangible, impactful solutions –– successful implementation.

Continue reading
SDN Chapters Service Design Global Conference 2024 - Registration and Speaker Call are open!

Service Design Global Conference 2024 - Registration and Speaker Call are open!

Super Early Bird tickets for the Service Design Global Conference (SDGC24) are now open for sale. Register early and get a free workshop included in your conference ticket, as tickets are available in limited quantity. And if you're interested in submitting your talk proposal, call for speakers will remain open until March 31, 2024.

Continue reading
SDN Chapters Join us for the next Service Design Network Next Gen Conference 2024

Join us for the next Service Design Network Next Gen Conference 2024

Attention students, young and senior professionals and career shifters: Join us for the 3rd annual SDN Next Gen Conference 2024 held online with the amazing theme: “Infinite Threads: Interdisciplinary Collaboration to Unlock the Power of Service Design” on April 12th.

Continue reading
SDN Global News Replay tickets SDGC23

Replay tickets SDGC23

If you missed the Service Design Global Conference 2023, you can now register for a ticket to watch the recordings from our Replay section.

Continue reading