【Report】Service Design Network Japan Conference 2014

2014年9月14日に開催されたService Design Network Japan Conference 2014。今年は、「行動と組織のトランスフォメーション」というテーマのもと、ビルギット・マーガー教授の招待講演をはじめ、様々な事業領域における発表、および先端テーマに関するパネルディスカッションなど、充実した内容のプログラムとなった。

サービスデザインとは

今回は、簡単ではあるが各プログラムの内容についてダイジェストで紹介したいと思う。


【ビルギット氏の講演】

サービスとは複雑なシステムである

 未来をデザインするためには、サービスをデザインしなくてはいけません。サービスをデザインするためには学際的な連携が必要になります。
 ではサービスとは一体なんでしょう。サービスとは人々や技術が他社に対して価値を提供する行動をとる複雑なシステムです。よってサービスを改善したいと思ったら、複雑なシステムについて考えなければなりません。
 複雑なシステムの特徴は、作用を与えなくても自ら発展し、生を持ち、ダイナミクスを持つ動的な実体ということです。また相互に関係性のある多数のサブユニットから成っています。したがって、あなたの目の前にあるシステムは、さらに大きなシステムの一部であり、そのような動的で相互関係性のあるシステムを制御することはできないという点が最も本質的なことです。これは全てを制御するまで全てを分析するという西欧の産業化社会には大きな打撃となります。

複雑なシステムに対するデザイナーの役割

 このような複雑なシステムに対し、デザイナーは独自の見方によって対処します。もちろん見方の違いによって問題の理解やシステムに対する問いは変わってきます。厄介な問題に対するソリューションを見つけたければ、正しい/間違っているといった二分法ではなく、より良いか/より悪いか、適しているか/適していないかといった二分法が必要になります。
 そしてそのようなソリューションに対しては即効性があり究極のテストを行うことはできません。「やってみなければ分からない」のです。さらにソリューションによって問題を変化させてしまうと、元に戻すことはできないのです。
 デザイナーは科学界の基本である線形解決の手法を身につけているわけではありません。よって、そのプロセスは非常に全体的で反復的、直感的で批判的なプロセスとなり、結果的に創造性を持ち得るのです。
 サービスデザインとは、ユーザー目線で役に立ち、利用でき、求められるシステム、供給者目線では価値を生み出し差を付けるシステムを作り出すことです。特にユーザー目線で問題に取り組むことが重要となります。

サービスデザインの2つの事例

 ケルン近郊の病院においてケルン工科大学の学生と行った病院の待合に関するプロジェクトでは、病院にスタッフと学際的で徹底的なミーティングを行うことからスタートしました。システムに介入するためにはシステムに馴染まなければならないからです。そこから状況の改善にはシステム内部に目を向けなくてはならない必要性に気づきました。さらにサービスデザイではバックステージの状況を知ることも良くやるので、それらから病院のシステムの内部にコミュニケーションや設備、物流の問題があることが分かりました。
 そこまでのプロセスに基づき実験段階の成果物を経て、サービスデザインは創出プロセス、つまりアイデアを実現させ、ルール化することで病院での体験をより良く完璧なものとするプロセスとなるのです。サービスデザインのプロセスは、新しいアイデアを作り出すために、深みに入りアイデアを概念化してそれを試験することまで含むのです。

 アイントホーフェン市のTippelzoneにおける売春の問題についても同様です。私たちは現地に2週間滞在しあらゆる関係者へのインタビューを元に関係者マップを作成しました。売春について調べると、女性の後ろについているあっせん業者も、顧客も、ケアする人たち、ソーシャルシステムも、そして女性自身も問題の一部なのです。  
 このケースでは、男性に影響を及ぼすことはできません。また、女性を働かせ、収入を得るあっせん業者やドラッグの売人にも影響を及ぼすことはできないと感じました。よって私たちはケアをする人たち、女性、そして行政に焦点を合わせることにしました。これら3者について見ていくと、行政はまるでTippelzoneの女性たちの実情について知り得なかったのです。
 Tippelzoneにおいてはケアをする人が非常に重要な役割を果たしています。よって彼らが売春に利用しているコンテナを、女性の興味関心に基づく様々な教育モジュールを提供するコンテナとして利用することにしました。
 結果、2010年にはテストを行い、2011年にはすべての女性に対して試作を行いました。また2011年には古いTippelzoneシステムの閉鎖が宣言されました。2年間で根本的にシステムを変え、新しい生活の質を関係する女性のために作り上げることができたのです。

サービスデザインとは

 サービスデザインとは学際的なチームで複雑なシステムについて取り組むことです。これは過程で物事を考えることであり、この過程を視覚化することでもあります。また、深くまで掘り下げ、ユーザー目線から、そしてユーザー目線以外に供給者目線でもシステムをきちんと理解しようと努めることを意味します。
 サービスのデザインは共同デザイン・共同創出の過程であり、このサービスを利用する人たちや供給する人たちと、真の意味で協働することを意味します。さらに、多くのテストを行い早期に誤ることを学びます。構築し、テストし、再構成し、テストする反復的な改良の一貫したプロセスなのです。




SDN代表 -- ビルギット・マーガー 氏
SDN代表 ビルギット・マーガー 氏

渋谷から始まる新しいワークスタイルーー渋谷ヒカリエにあるクリエイティブラウンジMOVの事例

続いて、オフィス家具の販売と内装の設計施工を行うコクヨファニチャーからプロジェクト企画室室長を務められている竹本佳嗣氏より、自身が中心となって手がけた渋谷ヒカリエにある『Creative Lounge MOV』について紹介いただいた。


新しいムーブメントを生み出すためのクリエイティブワークスペース

近年、ビジネス環境が移り変わると同時に組織も変化しており、働き方についても3.11以降、場所に依存しない働き方のニーズが強まっていると言う(写真参照)そのような社会ニーズに応えるべく、「企業、国籍を超えて多種多様な人が集まり、新しいムーブメントを生み出していく」というテーマのもと立ち上がったのが『Creative Lounge MOV』である。
  
『Creative Lounge MOV』は、大きく4つのスペースに分かれている。 
まず中心にある「オープンラウンジ」は“街の中心にある広場”というデザインコンセプトのもと、様々な座席が用意されており滞在場所も自由に選択できる場所である。また、イノベーションのヒントとなるよう書籍や雑誌の他に、ゲームなどのグッズも置かれている。(写真参照)

次に「ミーティングルーム」は、6名の少人数から24名まで対応可能な部屋が用意されており、大型モニターやホワイトボードが設置されている。
「レジデンスエリア」は、ロッカー付きのシェアテーブル席と、24時間利用可能な1~2名利用のブース席をご用意され、MOVを拠点として、ビジネスを行いたい個人や企業のためのスモール・オフィスとなっている。

「ショーケースアイーーーマ」は、場所、時間、立場など、様々な状況における“合間”をテーマとした場である。ヒカリエの通路に向けてガラス張りの空間で、様々な展示やマーケティングに利用されている。

空間の提供だけでなく、多彩な活用ケース

また、こうした空間をただ提供するだけでなく各種団体やイベントとも積極的にコラボレーションしているとのこと。過去には、『九州ちくご元気計画』のスペシャルエキシビジョンとして、イベントを開催。また『大地の芸術祭』とも過去にコラボレーションした。
雑誌やTVのロケ地としても使われることも多々あるとのことで、活用の範囲は多彩だ。

現在の会員メンバーは、個人・小規模企業が7割、企業が3割程度とのこと。メンバー同士のコラボレーションはもとより、チームや法人設立に至るケースもあると言う。また、ビジネス関連商品や新商品マーケティングの場としての活用事例も増加とのことで、自社、顧客企業の新規事業や新商品のマーケティングに有効活用されているとのこと。今後の『Creative Lounge MOV』の可能性を感じる講演であった。




コクヨファニチャー株式会社 -- 竹本佳嗣 氏
コクヨファニチャー株式会社 竹本佳嗣 氏

ソーシャルテーマのためのデザイン

続いて、IDEO TokyoのDesign Leadを務める田仲薫氏より、IDEOがソーシャルテーマに関して取り組んでいる事例を紹介いただいた。


災害対策用のソーシャルネットワーキングサービス SF72

SF72は、IDEOがサンフランシスコのDepartment of Emergency Managementという行政機関とつくり出した、災害対策用のソーシャルネットワーキングサービス。
地震の際、組織的な救助活動がおこなわれるのは、地震発生のおよそ72時間後と言われており、救助が困難なその72時間を生き残るためにどう行動するかが重要であると言われている。
まずは、地震後の対策についてサンフランシスコの人々が普段からどのようなことを行っているかについて、様々な人にインタビューを行った。その結果、全く気にしていない人、一回は対策したけどそれきりの人、やろうと思っているけどできていない人、対策に常にコミットしている人と様々な人がいることがわかった。この人達のうち、普段からコミットしている人以外の人達の意識を変えたいと思った。また、調査から得られたインサイトのひとつとして、「地震後に何かが足りないというよりも、情報共有できることで安心できるほうが大切なのではないか」ということがあったため、人々をつなげるSF72というWebサイトをつくった。このサイトは災害時にはグーグルの災害マップが表示されるようになっている。また、災害にあった人達の体験談が聞けるようにもなっている。
現代では多くの人が既に様々なSNSに登録している。したがって、そのネットワークを利用することで人々をつなげることができるのではないかと考え、ウェブサービスとしてサービスを提供するのが最適だと考えた。

パブリックセクターのコンサルティングをする為に創り出した財団IDEO.ORG

2011年に設立した財団。発展途上国において通常のコンサルティングフィーをもらい活動するのは困難なため、活動するための組織を作った。半分はNPOの人で組織しており、組織は寄付金により成り立っている。

IDEO.ORGでは、これまでにいくつかのプロジェクトを行ってきた。
ザンビアにおいて避妊についての意識や行動を変えるプロジェクトでは、いきなりツールを渡して使ってくださいという流れにするのではなく、話自体に興味をもらってから、その後にツールを提示するという工夫を行った。
また、お金の使い方を学ぶアプリを作って、お金のない人々の意識を変えようというプロジェクトもある。
その他にも、「CLEAN TEAM」というユニリーバと一緒に行った、トイレについてのプロジェクトもある。このプロジェクトでも色々な人々に話を聞きに行った。難しかったのは、トレイについて話を聞くこと。場所やシーンを色々変えながら話を聞くという工夫を行った。プロトタイプを作っては試しに置いてみるということを繰り返した。その結果、現在のレンタルトイレという形態になり、実際の事業としても成り立つようになってきている。

オンラインプラットフォームOPEN IDEO

ウェブ上にあるオーブンディスカッションの場として、OPEN IDEOを作った。 
ここでは社会テーマについて、世界中の人々とディスカッションができるようになっている。興味があるテーマについて自身のアイデアを投稿することもできる。先ほど紹介したトイレのプロジェクトもOPEN IDEOからIDEO.ORGに引き継いで行っている。
OPEN IDEOでは、世界中から様々なテーマについて、沢山のインスピレーションを送ってもらっている。効率的な面もあるが、様々な視点からのアイデアが混ざっているため、難しい面もある。

講演の最後に、「やり方は毎回異なっているが、人を見て人に還元するというところは変わらない」、「やりながら学びがあるので、これまで紹介したものについて今後もやっているかはわからないけれどもやっている」と、ソーシャルという難しいテーマについて取り組む際の姿勢をまとめた。ソーシャルテーマのデザインに取り組んでいる人、これから取り組もうとしている人にとって、参考になることが多い講演内容であった。




 IDEO Tokyo -- 田仲 薫 氏
IDEO Tokyo 田仲 薫 氏

ウェイトロス市場をDisruptするサービスデザイン

次に、NYを拠点に「テクノロジーを通じて世界中の人々のヘルシーな生活をサポートする」というミッションのもと、ウェイトロスに特化したモバイルアプリを開発しているNoomのJAPAN代表の宜保陽子氏より、自社開発の健康管理アプリについて紹介いただいた。
 

「ユーザーの体験にとにかく共感せよ」ユーザーの立場に立って考えた健康管理アプリ

まずNoomには、プロダクトに対する黄金原則があると言う。「ユーザーの体験にとにかく共感せよ」Noomでは、自分をユーザーに置き換えて考えることを最大のプライオリティとしろと言われている。宜保氏は、ユーザーの立場に立って減量について考えた場合に重要な観点となるのは、「続けるためのモチベーション」と「ガイダンスサポート=コーチ的な存在」が重要であると言う。
 
そこで開発されたのが『Noomコーチ』である。Noomコーチは、「モチベーションサポート×コーチング=『続けられる』ダイエット」というコンセプトのもと、主に4つの機能を提供している。コーチが毎日ユーザーにパーソナライズされたタスクを提供する機能、ユーザーが摂っている食事に対するフィードバック、ヘルシーなレシピの提供、グループ内で減量のやる気をサポート。
 
その中でも、続くダイエットには食事のログが重要であると言う。この一番重要でありながら面倒な食事の記録をいかにストレスフリーにするか。例えば、Noomコーチには、すでに11万件超の食品データが登録されており、カロリーも分量ごとに表示されている。さらにユーザーが食品をなるべく簡単に探せるように食品予測技術などを搭載し、食事のログ取りをサポートしている。
コーチング機能については、無理のないダイエットを訴求するため、その日にやるべきことは1画面に集約。タスクや記事は日々のユーザーの活動状況に応じてコーチがパーソナライズし提供していると言う。

週1回のペースで改善
年間52回のアップデート

また、サービスの運営体制にも特徴がある。サービス改善のプロセスとして、毎週UXテスト、およびユーザーインタビュー。そこから得られた改善事項のプライオリティをつける方法として、改善事項のリクエストは投票形式で見える化し、緊急度や重要性の高いものから改善していると言う。また、その改善スピードも年間52回リリースという週1回のペースで改善を行っていると言う。その結果、米国では累計1200万ダウンロード。21ヶ月連続売上げ1位を達成し、ユーザーも平均5kgの減量に成功している。
 
BtoCからBtoBへサービスを活かす

さらに宜保氏は、この成功をBtoBビジネスにもシフトしていく方法についても言及された。
いま生活習慣病は、世界中で深刻な問題であり医療ヘルスケア業界でのポテンシャルがあると言う。
特にアメリカでは、肥満人口や糖尿病予備軍の人口は増え続けており、オバマケアによる医療機関がインセンティブを受ける仕組みや、消費者間でも医療機関との関係性を重視するようなエンゲージメントを評価する傾向が強くなってきた。そこにNoomがモバイルのテクノロジーによって、エンゲージメントを補強する役割になっていると言う。
  
NoomのBtoB向けヘルスケアプロダクトは3つの要件から構成される。「『食事+運動』の臨床的重要性」「通院間の、患者とのエンゲージメントの必要性」「C向けサービスにおけるNoomの専門性、知見の適用」を軸に3つのプログラムを提供している。

1つが、糖尿病予防プログラム『Noom Prevent』。米国連邦防疫センターへのデータ自動レポート。ケア提供者、専門機関向けダッシュボードなど、保険会社やヘルスセンターなどに導入を開始していると言う。
2つ目が、摂食障害者向けプログラム『Noom Monitor』。これを使って治療中の行動をログし、ケア提供者は、この行動記録をもとに研究を行う。80人の患者を対象とし、2年間研究に使用される。
3つ目が、企業向けウェルネスプログラム『Noom Coach Enterprise』。ソウル市内の企業向けウェルネスプログラムをNoomが開発、実施。減量、生活習慣改善をゴールとした15週間のカリキュラムを提供。ソウル市内の企業20社から、100名以上が参加していると言う。

講演の最後に宜保氏から、NoomはBtoBの取り組みはまだ始めたばかりだが、様々な業界を超えて、世界で健康なエコシステムを構築していきたいと考えているとのこと。その力強い言葉から今後のNoomの活躍を予感させられた。




Noom Japan -- 宜保陽子 氏
Noom Japan 宜保陽子 氏

「顧客体験のプラットフォーム」と捉え直すブランド戦略

続いて、ブランドコンサルティングを行っているインサイトフォース株式会社 代表取締役の山口義宏氏より、顧客体験視点からブランド戦略を再定義する視点とヒントを解説していただいた。
 

ブランドとは?  

まずは、ブランドの定義、ブランドが創られる法則について。ブランドとは頭の中で「記号」と「価値」が結びついた総体であり、ブランドが創られる法則は、“魅力的で、一貫性のある顧客体験の蓄積”で創られることを解説。
一貫性のある顧客体験について、大企業においては、施策が個別最適になっていて、生活者からは一貫性のあるブランドを感じられないようになっていることが多いことを指摘。個々の体験が魅力的でも一貫性がなければブランドとして記憶されないことを強調し、タッチポイントでの一貫性だけでなく、時間軸でみた場合の一貫性の重要さも必要であると言う。

ブランドの「知覚価値」とは、生活者が認識できている価値、覚えている価値であり、開発者が知っている価値ではないことを強調。例として、ダイソンはまず他の掃除機はゴミを取り残すことがあるという認識を生活者に植えつけたうえで、「吸引力の衰えない唯一の掃除機」と謳っている。ファクトも大事だが、どういう知覚を与えるかが大事であることを繰り返し強調していた。

ブランド戦略とは? 

ブランド戦略とは、意図的に生活者の頭のなかで、識別記号と知覚価値を結びつくように全ての顧客接点の品質と一貫性を体系的に管理することで、市場競争力を高めることを目指すものを指す。
また、ブランドが重要になる背景として、企業目線の誤解と顧客目線の実態に差があることを指摘。企業は、顧客は優れた事実で商品・サービスを選ぶと思っているのに対し、顧客は、知覚認識で商品・サービスを選んでいるのが実態。
次に、iPhoneとXperiaを例に挙げ、カタログスペック(モノ単体の良さ)は、必ずしもiPhoneがすべて高いわけでないことを示し、iPhoneの強さの本質は顧客体験全体の良さにあることを指摘。
消費者にとっての価値構造は、「モノ単体の価値」だけでなく、「連携サービスの価値」、「人との会話〜情報の価値」も含めた、全ての顧客体験の累積であると言う。

経営から見たブランド戦略とサービスデザインアプローチの効用

「ブランド戦略」を、社内では事業戦略とマーケティング4P施策を整合させるものとして、顧客には、ブランド体験の一貫性を生み出す「核」となるものとして位置付けていた。また、4P施策は、一定確率で成功と失敗が混在するものであることから、失敗しても戦略まで遡らず、施策領域でPDCAを回して迷走を防ぐようにすべきであるとし、「ブランド戦略」と事業戦略とを中期的に固定すべき領域、4P施策についてはPDCAを高速回転させるべき領域とすべきであうと言う。

最後に、ブランドの一貫性を担保するアプローチとして、3つのアプローチを紹介し、日本企業が弱い傾向がある、「戦略牽引型」について、3つのポイントを挙げた。

その中で、「ブランド戦略の形式知化」に続き、「部門横断でのサービスデザインアプローチでの検討が有効」なこと、「モノをつくってから後付で体験を考えない。理想的な顧客体験を定義してからモノ・サービスを考える」ことが強調されており、ブランドコンサルティングの視点からも、領域横断のサービスデザインアプローチ、顧客体験からモノ・サービスを考えることの重要さが示され、今後ますますサービスデザインアプローチの重要性が増していくことを感じる講演であった。




インサイトフォース株式会社 -- 山口義宏 氏
インサイトフォース株式会社 山口義宏 氏

「サービスデザインの裏と表」

最後に、株式会社リクルートテクノロジーズの岩佐氏を司会に迎え、これまでの登壇者と共に「サービスデザインの裏と表」というテーマでパネルディスカッションが行われた。

岩佐氏曰く、「日本でのサービスデザイン、ぶっちゃけどうなの?」ということで、マネタイズのポイントやコミットメントのありかたの変化、デザインから事業性・収益性をへの変化についての話となった。

「圧力がありながらも、信念で」

それについてコクヨの竹本氏は、ヒカリエの例ではやはり一般的な企業・大学などを対象にした場合にマネタイズの面で難しさがあったとのこと。
「渋谷らしさ」に特化した上で、事業や組織をコンサルティングしマネタイズのケイパビリティを担保していくといったファシリテーションをコクヨ側で行っていったようだ。

さらにコクヨ社内でも社長合意の事業として今までの慣例外のやり方でプロジェクトを進めていく必要があり、議論や圧力が発生しながらも信念で遂行したとのことだ。

「ビジネス重視であれば、IDEO以外に適任」

またIDEOのトイレプロジェクトのマネタイズについて田中氏は、この事業はノンプロフィットであるとした上で、プロジェクトには期間があってゴールがあり、サスティナビリティは重要だが事業主ではないのでずっと付き合うことはできないという、というIDEOの姿勢を語った。新領域提案については顧客がつくかどうかの判断が重要であり社内にそれを判断する役職者もいるが、結果は後にならないと分からないので難しいとのこと。

それに対して岩佐氏より、プロジェクトゴールのバランス感は、売り上げに対する効果なのか、顧客の満足なのか、という質問が出た。

田中氏曰く、アイデアを出しながら検討をしていくが出してみないと分からない部分があり、良いアイデアだと思っても事業性が担保しきれない場合もあるとのこと。
デザイナーとしてはプロトタイプを作り体感することが重視しており、その体験が人々にとって価値があるかどうかが重要との意見。ビジネス重視であれば、IDEO以外に適任がいるのでは、との見解だ。

「基本的に儲かるか儲からないか」

一方、山口氏はインサイトフォースの事業について、基本的に儲かるか儲からないかのビジネスコンサルタントであるとし、デザイン主導のIDEOとは真逆でマネタイズありきであると述べた。

その上で、既存の収益モデルを危機にさらすような施策は十分に顧客とコミュニケーションを行うことが重要とし、数字そのものには意味が無いことを説く必要があるとした。
チャンスとリスク、必要なリカバリー策まで提案した上で、新しいことを行うために古いものをどう遠ざけるかが問題だとし、イノベーションを行うことは大変リスキーであるとの意見だ。

「成功体験が大きいほど変化は難しい」

さらに、クライアント企業にはそれぞれ「人柄」があり、何かを変えていく際にはその組織のキャラクターについても苦労があるようだ。成功体験が大きい企業、技術主導で勝ってきた企業ほど組織変革、意識改革といった変化が難しくなり、与件整理から関わる必要があるとのこと。

さらに、日本企業の弱点として戦略的なブランド牽引力をあげ、ブランド力が強いと思っていた企業が実は技術力ベースであると指摘した。既存の技術などの慣性力から脱し、理想的な顧客体験を議論することが大切だそうだ。

「組織(B)の顧客は結局は個人(C)」

片や、創業から一貫しているNOOMに苦労はないのかというと、レビューや口コミへの対応を地道に行うなどの地道な努力はあったようだ。

その上で、対個人から対組織へのプロジェクトのスケールについては、特に古い保守的な業界へのアプローチは難しかったとのこと。しかし、アメリカには大企業とのマッチングをサービスしてくれる団体があり、そのようなシステムを利用してアプローチしていったそうだ。

この図式は「既得権益への立ち向かい」というイノベーションにおいて、日本国内では特に難しそうに思えるが、顧客個人(C)に受け入れられているファクトを持って、各組織(B)に対して時間をかけてアプローチをしたそうだ。Bの顧客は結局はC、ということである。

またマネタイズの仕組みについても安定志向ではなく常に事業のスケーリングが企業としてのミッションであるとのこと。企業規模が小さいことが意思の統一に有効に働いているようだ。

「多くのアイデアが出る事が大切」

IDEOの「OPEN IDEO」という試みついて、岩佐氏より「エノログ的なのか?」との問いが上がった。リクルート社内でも類似のサービスを導入しているが、しっかり成果が出るのかが疑問だそうだ。
アイデアを公募するより社内で考えた方が良いのではないか、という問いに対して田中氏はこう反証した。

良いアイデアは大したことないことが多い。ふと思いつくものが案外良いアイデアだったりもする。そして視野が広がる。社内などで行うグループワークの拡大版がOPEN IDEOであり、アイデアの良い悪いでは無く、多くのアイデアが出る事が大切とのことだ。

グループワークは社内のみならずクライアントと共に行う場合においては、クライアントの思い込みとユーザー視点が違うことを、クライアントと一緒に体験することできて大切だそうだ。

「意志決定者が直に直接触れることが大切」

その点については山口氏も同意見だ。直接体験すること、客観的な証拠はとても重要であり、ユーザーの生の声の力は大きい。各企業の意志決定者がそれらに直に直接触れることが大切と述べた。
(コンサルティング業界自体もその点においてはブラックボックスである、との補足も)

イノベーションを行う際、企業内で横串的な部署が設立されることも多いが、それだけでは不十分であり、組織体として立ち向かう必要があるとした上で、その組織キーマンの視界合わせなど、半分は組織そのものの問題であるとした。
諸問題に対して、社内に解決策がない場合は少なく、そもそも合意形成ができてない事が問題であることの割合が非常に多いとの指摘だ。特にワンマンキーマンが居なくなった後にそのような傾向が顕著化するようだ。

つまるところ、組織内変革に対しては必殺技や魔法の杖的な施策は無く、意志決定者そのものの認識が変わっていくことが重要と締めくくった。

「日本は割とスタートアップが元気」

最後に、現在の日本国内における事業のスタートアップについて、宜保氏は特に海外と変わりなく元気だと述べた。特にNOOMの様な企業は規模の小ささが幸いしてハンドリングも良いのだそうだ。そのあたりはアメリカのカルチャーの良い影響とも言えよう。


以下、会場からの質疑応答。


mixiの方より、プロジェクトにおいて思い込みがあると正解しか拾わなくなるのでは、という質問が出た。組織内の物事に対してポジティブな解釈しかしない様な場合などだ。

これに対し山口氏は、何の不安がそのような場(正解しか拾わない)を作っているのかを突き止め、それらを地道に取り除く努力をするしかないと述べた。

またリクルートの方より、サービスデザインにおいては解決方1つではなく
、また新しいわけでもない。プロジェクトを受ける受けないの判断はどこで行うのかと、IDEOに対して質問が出た。

それについて田中氏は、費用と期間が、顧客の求めているものと割に合わない場合や顧客がIDEO側のインサイトに興味を示さない場合などは仕事は受けないと答えた。逆に、問題が複雑(死や宗教…etc)であればあるほど、デザインで解決できる余地があると意気込みも伝えてくれた。

一方山口氏は、ケーパビリティやリソースを鑑みて顧客に競合他社を紹介することもあるとのこと。その上で、面白そうで挑戦しがいのある仕事は進んでやるそうだ。

総じて、提供価値がなんであるかが明確になっていることが重要である。




 --
司会を務めた株式会社リクルートテクノロジーズ 岩佐浩徳 氏

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