SDN Japan Chapter Meetup vol.6 イベントレポート

2018年8月14日に開催された「SDN Japan Chapter Meetup vol.6」のイベントレポートをお届けします。

8月14日、SDN Japan Chapter Meetup vol.6が開催されました。今回は、この6月にミラノで開催された、サービスデザインとイノベーションに関するカンファレンス「ServDes.2018」に参加された4名の方から話題提供をしていただき、その後、参加者の皆さまとのディスカッションを行いました。

はじめに、株式会社インフォバーンの井登友一さんから、ServDes.の概要と特徴についてご紹介がありました。


ServDes.は、サービスデザインおよびサービス・イノベーションにおける先進的研究者の知見交換を目的として、北欧で始まった学会です。現在では、隔年開催の国際イベントとして、サービスデザインおよびデザインによるサービス・イノベーションの新たな指針や定義、教養領域の創出と進化の場として開催されています。SDNが毎年開催しているService Design Global Conferenceと比較するとアカデミックなカンファレンスで、実務家よりも研究者の参加者が多く、サービスデザインの理論や研究に重きが置かれています。


日程は3日間で、初日にメインプログラムの8つのテーマトラックのテーマが発表され、2日目、3日目で各テーマのワークショップが開催されます。トラックごとにトラックチェアがオーガナイズし、口頭発表とパネルディスカションを運営します。


このようなイベントの概要説明の後、井登さんは自身が参加したワークショップの様子や開催地ミラノの紹介をされました。ちなみに、参加されたワークショップで用意された「Yuichi」というペルソナは井登さん自身にとても特徴が似ていて感情移入したとのことです。

次に、東京都市大学の坂倉杏介先生から、「地域コミュニティにおけるサービスエンカウンター」というテーマで話題提供していただきました。坂倉先生は普段、コミュニティマネジメント、ワークショップデザインの研究を専門としており、さまざまな地域で実際に協働プラットフォームをつくるための研究活動をされています。その活動紹介として、港区で開催している「ご近所イノベーション学校」や、徳島県神山町で実施している、サードプレイスを活用した集合住宅のコミュニティデザインの有効性検証、尾山台の商店街でテントを張るアーバンキャンププロジェクト、湯河原でされている、子どもを中心とした多世代の共創による居場所づくりなど、さまざまな地域でのコミュニティによるサービス創発の取り組みを紹介していただきました。

そんな坂倉先生がServDes.の中で着目したのは、エツィオ・マンツィーニ教授の「Service Encounters Map」というフレームワークです。これは、サービス提供者と受益者のパワーバランスと関係性を軸としたフレームワークで、坂倉先生は、このフレームワークをベースとして、「どうすれば隷属的ではなく、インタラクティブで新しい協働のかたちが生まれるか?」という問題提起をされました。その可能性を示す事例のひとつとして、ご自身が活動されている「芝の家」というコミュニティスペースを紹介。「芝の家」は、目的や対象者があいまいで、自発的、自律的なインタラクションが生まれる場所だと言います。このように、「現代的で心地よい近所付き合い」に対して、サービスデザインの考え方は有効なのではないかと締めくくりました。

※「芝の家」についてはこちらで紹介ビデオが取り上げられています。

3人目は、名古屋商科大学の澤谷由里子先生から、ServDes.のテーマに関する全体的な分析をもとに、サービスデザインに関する現在の潮流と今後の展望についての話題提供がありました。

今回のServDes.のテーマは、「Proof of Concept」でしたが、そのテーマが意味するところとして、サービスデザインはもはや「emerging descipline(新興的な分野)」ではなく、「logic of services(サービスの論理)」になろうとしており、今回のカンファレンスは、サービスデザインの概念の有効性を証明することを目的としていると紹介されました。

続けて、今回のカンファレンスで扱われたキーワードやトピックを全体的に分析した傾向についても解説していただきました。キーワードとしては、「サービス」「デザイン」に関する領域が大部分であり、近年の傾向として、ソーシャルやコミュニティ文脈での「デザイン」の視点と、企業や経済的価値の文脈での「マネジメント」の視点が融合してきていると言います。その橋渡しとなるキーワードとして、「Service System」「Social Innovation」「Transformation」というようなものを挙げられました。

また、ServDes.では、各大学のドクターの学生が自身のリサーチテーマを発表して深掘りするための「ドクターセッション」がありますが、セッションの前後でもリサーチテーマの共有と活発な議論が行われているそうで、今後の兆しを示す活動としてとても興味深いと紹介されました。

このようにカンファレンス全体を俯瞰して解説していただいたことで、全体の潮流やトレンドがとてもわかりやすい話題提供でした。

最後の発表は、NTTサービスエボリューション研究所の草野孔希さんです。草野さんは普段、社内で活用するためのツールキットの開発やワークショップのプロセス開発などをされており、誰もがデザインを活用できるしくみを目指して研究をされています。

草野さんは、今回ServDes.の中で自身が発表されたので、その内容や会場からの反応を共有していただきました。発表したテーマは「ServDeWS: The Service Design Workshop on Utilizing Multi-Viewpoint and Diversity of Participants based-on HCD」というもので、研究者向けのサービスデザインを体験できる2日間のワークショップを開発し、その効果検証をした事例の紹介でした。発表の内容はポジティブに評価され、特に実践した結果を定量評価によって細かく検証し、改善案まで丁寧に議論したところが評価されたそうです。また発表者の立場からみたServDes.の感想として、「学び」としての評価が重視される、定量と定性の組み合わせが重視される、というような特徴を紹介し、何より会場の質問が温かくよい雰囲気だったと言います。

また、自身が興味深かったテーマを2つ紹介。1つ目は、「ADEQUACY」という基準に基づくサービス評価手法の紹介で、サービスデザインの設計・評価手法についての形式化を進めることで、コラボレーションを円滑にしようとする動きが見られるものでした。2つめは、サービスデザインにおけるユーザー理解にいて「Empathy」に加えて「Lived-Experience」を統合する提案で、ユーザー理解の難しさを真摯に認識し、理解の質をあげる提案をしているとのことでした。

以上のように、4名の方からそれぞれ異なる視点で話題提供をしていただき、その後会場全体でのディスカッションを行いました。

ディスカッションでは、ServDes.で研究発表するときのポイントや、アカデミックな世界に見えるサービスデザインの高度な理論教育、今後サービスデザインが関わってくるであろう異分野との融合などが議論されました。そして、最後に全体での懇親会をして、ミートアップは無事に終了しました。

ディスカッションの中でも話題に上がっていましたが、ServDes.はアカデミックな場でありながら、実務的な知見も積極的に取り入れていこうという運営方針らしく、実務にもとづくケーススタディなどの共有もウェルカムな雰囲気だそうです。次回の開催は2020年メルボルン、もし興味があれば、研究発表を検討してみてはいかがでしょうか?

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